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2017.10.24.

個人事業主が法人化(法人成り)するメリット11個とデメリット6個

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事業を営んでいる方にとっての課題には、利益を少しでも多く上げていくことや事業をいかに発展させ継続していくか、また決められている法規制に対して如何に対応していくか、などといったさまざまなものがあります。

そういった中、個人事業主にとって法人化を検討していくことは、とても重要な観点であると同時に、今後生じてくる諸課題を解決できる可能性が秘められています。

法人化のメリットやデメリットを検討することにより、ご自身の事業を法人化するタイミングを考えてみましょう。

個人事業主にとって法人化を検討する際には、①税務の観点、②資金調達の多様性、③会社運営の視点、④信用面の問題、⑤事業の発展性の点を考える必要があります。

法人化(法人成り)とは何か

法人化(法人成り)とは、これまで個人でおこなっていた事業を新会社が引き継いでおこなっていくことを言います。すなわち個人事業主として事業をおこなっている方が、新しく会社を設立して、その会社組織の中で事業を引き継いでおこなっていくことです。 

事業を引き継いでおこなっていく、という点が法人成りの特徴で、このことが通常の新しく事業を始めていく会社設立とは異なる点になります。言い換えるならば、法人化は、個人事業の時の資産や負債を新会社が引き継げて事業を行っていくことになります。

資産とは、個人事業主が所有していた預金や売掛金、貸付金などの金銭債権、建物、備品、車両などの固定資産などを指します。また、負債とは、個人事業主が負っていた買掛金や未払金などを指します。

法人化の特徴であり、通常の会社設立との違いである個人事業の時からの資産・負債を引き継ぐという点。このことは、通常の会社設立では、設立時及び開業時において会社が所有するのは、基本的には資本金に相当する資産だけとなりますが、個人事業から法人化した場合には、個人事業主の資産・負債を引き継いで事業を行っていくことができるので、スムーズな事業スタートが切れるとも捉えられます。

個人事業主が法人化するメリット11個

個人事業主がおこなっていた事業を、新会社に引き継がせていく、法人化。この法人化を行っていく11のメリットを列挙します。

1. 税負担を軽くすることができる

個人事業の売上には、所得税が課せられ、法人の売上には、法人税が課せられます。
この税の扱いの違いを理解し、活用していくことで、法人化のタイミングや法人化のメリットを検討していくことが可能となります。

所得税と法人税の違いとして、所得税は、累進課税制度となっており、課税対象の所得金額に応じて、金額が多くなるほど税率も高くなります。一方、法人税は課税対象の所得金額が800万円を分岐点として、税率が決められています(資本金1億円以下の中小法人の場合)。

法人税は、国際化の流れを受けて引き下げ競争が起こっていて、たとえば平成元年の基本税率は40%、中小法人のうち所得金額が年800万円以下は29%でしたが、平成10~11年にかけて一度引き下げられ、平成24年以降も段階的に引き下げが行われたため、今年度は平成になって最低水準になっています。税負担を軽くすることができるメリットの詳細は、後半で説明する法人化のタイミングの中で、詳しく記載して参ります。

2. 金融機関からの融資の受け易さや融資金額の拡大が見込める

法人化することにより、金融機関にとっては法人対象となり、個人事業対象とは扱いの違いが生じてきます。法人の場合は、会社名や本店住所、事業目的などが謄本に記載されて法務局に登録がされて、社会的な信用につながります。更には公的機関の法人向けの融資や助成金などの制度を活用していくことも可能となります。

最近は、国を挙げての企業支援や新規事業の創出、中小企業対策なども手厚く行われております。こういった動きに呼応する形で金融機関も、子会社や系列を活用する形で投資ファンドなどを創出して、法人へのサポートを行っております。法人化に伴って信用力が増すため、資金の調達がしやすくなります。

事業計画や事業の発展性次第では、株式証券市場に上場していくことも決して夢ではないです。また、個人事業と違って、法人は有限責任となるために、個人の資産をおさえられたりするリスクがなくなります。

3. 支払う給与に対して給与所得控除が受けられる

個人事業主として得られる資金は、事業所得の扱いとなりますが、法人の場合には、給与所得としての扱いとなります。法人化によって、法人から給与という形で報酬を受け取ることが可能となります。

その際に、個人事業主では享受することのできない給与所得控除を活用していくことができます。例えば、年間給与を500万円とした場合、給与取得控除額は、収入金額×20%+540,000円と法令で設定されていて、154万円の控除を受けることができます。

これに対して、個人事業主は、青色申告で年間65万円の控除が受けられるのみとなります。

4. 適正な金額を限度として、損金計上を伴っての退職金を受給できる

退職金制度を設けて、退職する際に退職所得として資金を受け取ることが可能となりま
す。更には、退職金に対して退職所得控除を使うことができて、所得税を安くすることが可能となります。

退職金の額から退職所得控除額を差し引いた額に1/2を掛けた金額が課税退職所得金額となり、所得税の課税対象の扱い金額となります。

退職所得控除額の計算方法は、国税庁ホームページ(nta.go.jp/taxanswer/shortoku/1420.htm) より
*勤続20年以下の場合:40万円×勤続年数(80万円に満たない場合には、80万円)
*勤続20年超の場合:800万円+70万円×(勤続年数‐20年)
となります。

具体的には、たとえば退職金2,000万円で勤続15年の方では、40万円×15の600万円を退職金の総額から控除として引き1,400万円、その1/2の金額700万円のみが所得税の課税対象となります。

5. 決算対策がしやすくなる

個人事業の確定申告は、所得税に関しては、翌年3月15日まで、消費税に関しては翌年3月31日までに行う必要があります。1月から12月までを期間として、1年間の収入と支出をもとに税額が計算され、この期間の設定を動かすことはできないです。

これに対し法人は、法人の各月での売上げの推移を見ながら、決算時期や決算日を決めていくことができて、税負担を軽減することが可能となります。売上のピークや不調な月を予測しながら、年間収益の予測をあらかじめ立てた上で、決算月の設定を行い、この設定から年間の売上額が決められていくことにより、節税の対策や決算の準備をしていくことが可能となります。また繁忙期での混雑を避ける形での決算期を設定していくことなども可能となります。

6. 役員報酬を経費に計上して、法人の税負担の軽減を図ることが可能

代表取締役や取締役の給与は、役員給与として会社の経費、すなわち損金に算入することが認められます。条件としては、役員に対して支給される給与の額のうち、定期同額給与、事前確定届出給与または業績連動給与のいずれかに該当するものとなります。該当した場合でも、不相当に高額な部分の金額は、損金の額に算入されないことがあります。

大まかに、定期同額給与や事前確定届出給与、業績連動給与とは、どんな内容なのかを記します。

定期同額給与とは: 役員報酬の支給が一か月以下の一定の期間ごとに支払われる給与で、その給与の額が同額であるものをいいます。

事前確定届出給与とは: 対象の役員の職務につき、所定の時期に確定させた額の金銭に基づいて支給される給与をいいます。

業績連動給与とは: 法人の利益の状況を示す指標を基礎として算出される額による給与となるものをいいます。
*国税庁ホームページより引用(nta.go.jp/taxanswer/hojin/5211.htm)

法人にとって役員報酬は、上記に該当する場合に、全額損金算入が行えます。受け取る役員にとっては、所得税の課税対象となります。

7. 財産を法人に移行させることができる

財産を法人に移行させることができます。資産のみならず負債さえも、法人に引き継がせることができます。法人化に伴って、個人事業主の資産や負債の中から、どの様な財産を法人に移すか、引き継がせるかを任意に決めていくことができます。

引き継ぐにあたっては、契約を交わしたり、現物での出資を行ったりしていきます。その際には、時価の算定が必要になります。評価額を決めて、売買契約、現物出資、賃貸借契約などの契約によって移行をさせます。また借入金は、名義変更の手続きなども行っていくことになります。

8. 人を採用する際に、採用がしやすい

法人になったことにより、新たな取引先として取引をしてくれる会社も生まれてきます。事業の拡大に伴って採用活動を行っていくにあたって、法人化によって信用力が増し、就職を検討している人材に取っても、個人事業と比べて、法人に対しては安心感を抱くことができます。良い人材を確保できるなど、採用活動がしやすくなることにつながっていきます。

9. 生命保険の効果的な活用ができる

生命保険に加入し、その保険料を経費にすることができ、節税と金融効果を図ることができます。

法人の場合は、生命保険料を原則経費扱いにすることができます。ほとんどの場合、保険料の1/2もしくは全額を損金に算入することができます。健康保険法の規定により徴収される保険料、あるいは厚生年金保険法の規定により徴収される掛金の法人が負担すべき部分の金額が対象となります。

一方、個人事業主は経費扱いにすることができず、生命保険料控除としてのみ処理を行うことになります。また生命保険や損害保険には、財産貯蓄を有しているものがありますので、それらを活用していくことができます。

10. 福利厚生制度を活用できる

法人ならではの準備できる福利厚生制度があります。たとえば、前述したように会社代表者の保険を会社名義で契約したり、社宅制度を活用することで経費を計上する事ができたりします。

その他にも、慰安旅行や新年会、忘年会、親睦会、更には残業時の食事代や保養所、別荘などが福利厚生にあたります。これら以外にも、全社員が利用できて、常識の範囲内での支給がなされる人間ドックや永年勤続記念品、クラブ・サークル活動への補助や資格取得費用なども対象となり、一定の条件のもとでの経費計上を行うことが可能となります。

社宅制度の活用とは、たとえば住居費分を給与に上乗せしてしまうと、その分が給与として、所得税や住民税、社会保険料等が金額に応じて増えてしまうので、それを税として支払う必要が生じますが、社宅制度を使うことにより、会社から社宅が提供されて、その住居費用分を損金に算入することが可能で、税負担の低減ができます。そのため所得税・住民税や社会保険料の軽減にも繋げることができます。

11. 事業承継がしやすくなる

法人化すると法人の財産は、すべて会社のものになります。そして、会社の財産価値は株式の価格、すなわち株の単価と発行済みの株式数を掛け合わせたものとなります。

不動産などの資産も法人の所有の場合は、現物で分割するのはたいへんですが、法人の株を使って分割することは簡単で、株の割当数を決めていくことにより可能となります。また一時的に費用すなわち損金を計上して、会社の利益を下げることより、株価も引き下げることが可能となります。株価を引き下げておいて、その株を引き渡したり、売却したりすることにより、優位に事業承継を図っていくことが可能となります。株価が下がっていますので、高い時と比較して、多くの株数を贈与できたり、売却できたりします。同時にこれに伴う贈与税の軽減効果も行っていくことが可能となります。

個人事業主が法人化するデメリット6個

1. 設立に際しては、費用を要する

法人を設立するにあたっては、費用が必要で、登録免許税や定款認定手数料、設立手続きの代行手数料、公証人手数料などが必要になります。

2. 決算を行う必要があり、手間や費用を要する

法人の場合、複式簿記を行う必要があり、決算書類には、損益計算書、貸借対照表、株主資本等変動計算書などが求められています。

3. 赤字決算においても均等割の負担が必要

個人事業では、事業所得が0円の場合、所得税も住民税もかかりません。しかし一方、法人には、法人税として、「法人税(所得税)」「法人事業税」「法人住民税」の3種類があり、所得が赤字であったとしても法人住民税は、「均等割」として、所得に関係なく定額で決められていて、支払わなければなりません。納税額は資本金等の金額によって異なります。

「法人住民税」には、神奈川県であれば、県民税と市町村民税の2つがあり、それぞれ「法人割」と「均等割」からなっています。東京都23区内の法人は都の特例として、市町村民税相当分もあわせて都民税として所管の都税事務所に申告して納めます。法人県民税は県税事務所(都税事務所)に、法人市民税は各市役所・町村役場に申告して納めます。

法人住民税の「均等割」の金額は会社の規模に応じて変わります。具体的には資本金の額が、1千万以下から50億円超までの5段間に分かれています。更には従業員数が50人を超えるか、50人以下であるかによって均等割額が決められています。

4. 交際費の扱いが違う

交際費には、接待費や機密費なども含まれますが、個人事業主では、交際費の全額が必要経費として認められていたものが、法人の場合は、原則交際費は損金として算入できないことになっています。ただし特例の措置があり資本金の額が1億円以下と1億円を超える場合で違いがあります。

資本金の額が1億円以下の法人の場合、交際費の飲食その他これに類する行為のために要する費用、すなわち接待飲食費のうちの50%に相当する金額、あるいは800万円に事業年度の月数を乗じ、これを12で除して計算した金額に達するまでの金額のいずれかの金額が損金の範囲となります。

資本金の額が1億円を超える法人の場合は、接待飲食費に対して50%に相当する金額までが損金の扱いとなります。

5. 廃業届の手続きが必要

税務署、都道府県税事務所、市区町村窓口の3か所に、個人事業の事業廃止届出書の書類を作成し、期限内に届ける必要があります。届出書類としては、税務署には、青色申告の取りやめ届出書や給与支払事務所等の廃止届出書、所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書などを、都道府県税事務所に対しては、事業廃止等申告書を、また市区町村窓口にも、事業廃止等申告書を提出する手続きが必要です。

6. 社会保険の加入が義務付けられる

法人化によって、社会保険料の加入が義務付けられ、費用負担が発生します。社会保険料の負担としては、健康保険、厚生年金、雇用保険料が発生します。

個人事業主が法人化(法人成り)するタイミングの目安

個人事業主が法人化(法人成り)するタイミングには、3つあります。

①課税所得額が、330万円を超える時点
②課税所得額が、900万円を超える時点
個人事業の売上には、所得税が課せられ、法人の売上げには、法人税が課せられます。
所得税と法人税の違いとして、所得税は、累進課税制度となっており、課税対象の所得金額に応じて、金額が多くなるほど税率も高くなります。一方法人税は、課税対象の所得金額が800万円を分岐点として、税率が決められています。
この取り扱われる税の違いによって、法人化のタイミングが決められていきます。
それぞれの税額の違いを列挙して、比較を行います。

個人事業主が対象となる事業の売上に基づく所得税は、法令から平成27年分以降は、5%から最高で45%までの7段階に分かれています。課税される所得金額に対する所得税の金額は、下記の速算表から求められます。

195万円以下の課税所得金額税率 5%控除額 0円
195万円を超え、330万円以下税率 10%控除額 97,500円
330万円を超え、695万円以下税率 20%控除額 427,500円
695万円を超え、900万円以下税率 23%控除額 636,000円
900万円を超え、1,800万円以下税率 33%控除額 1,536,000円
1,800万円を超え、4,000万円以下税率 40%控除額 2,796,000円
4,000万円超え税率 45%控除額 4,796,000円

例えば、課税される所得金額が700万円の場合には、700万円×0.23-63万6千円=97万4千円が所得税となります。

さらに個人事業主の場合は、住民税が課税所得に対して10%、個人事業税が5%課税(所得が290万円までは非課税)されます。

所得税の税率で、課税所得金額が330万円を超えると税率が20%に上がっていることが、上記の一覧表から見てとれます。

一方、法人の際の所得に対する法人税の税率は、資本金の額が1億円を超える普通法人の場合では、平成27年度の税制改正に伴って、平成27年4月1日以後に開始する事業年度から25.5%だった法人税率は23.9%へと引き下げられ、さらに平成28年度の税制改正で23.4%となっていて、段階的に法人税率が引き下げられています。また、平成30年度以降は23.2%になります。

法人が安い法人税を求めて国外に出ていくことを防いだり、国外の安い法人税の国から企業の誘致を図っていったりするために、更には売上げの拠点を海外に持っていくといった国の活力が損なわれるような事態を避けるために、法人税の引き下げ競争が世界で起きています。

資本金の額が1億円以下の中小法人の場合は、年800万円以下の部分については、法人税が15%、年800万円超の部分については、法人税が23.4%となっています。

この所得税と法人税の税率の違いから、個人事業主が法人化(法人成り)するタイミングには、2つの分岐点があり、1つ目は、利益が500万円を超えたあたりの、すなわち課税所得として330万円を超える時点です。2つ目の分岐点は、課税売上高が1,000万円を超えるあたりの、すなわち課税所得として900万円を超える時点のときが、法人化のタイミングとなります。

③課税売上高が、1,000万円を超える時点
3つ目のポイントとして、個人事業主の課税売上高が1,000万円を超えるときの消費税の納税義務が発生するポイントが分岐点です。

法人の場合には、原則として設立1期目と2期目は消費税が免除されます。したがって個人事業主の課税売上高が1,000万円を超える際に、法人会社を設立し、消費税の納税義務を回避して法人を設立し、法人の設立1期目と2期目の消費税を免除できる制度を活用することで節税が図れます。ただし注意しておくべきこととして、資本金が1,000万円以上になるとこの消費税の免除は適用されないので、留意が必要です。

まとめ

個人事業主にとって、会社を設立していつ法人化するかは、とても重要です。

ここに列挙したように法人化にはメリットやデメリットが、存在するので、税理士などの専門家に相談し法人化のタイミングを考慮しましょう。こちらの記事が法人化を行っていく参考となれば幸いです。

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